←  地震 Ⅲ  夜中に雉がなく  →

住まいの奥庭に荒れ果てて草蒸した古い納屋が建っている。

その脇の草叢に雉が卵を抱いている。

毎年、庭や畑で雌の雉を見かけるので、近くに巣のあることは気づいていたのだが、敢えて、探すよ

うなことはしなかった。

いつもの年ならそうやって静かに子育てが出来たのだろうが、今年は事情がちがった。

頻発する地震である。

あの3月11日当時はどうしたのだろう。

あれ以来揺れが来るたびに彼女はケンケンと声を発てる。昼夜かまわずである・・・・・。

お陰で、見当がついて、行って見ると案の定草叢に潜んでいた。

空には卵を狙うカラスがいるし、地上は発情期を迎えた雄猫がウロチョロ徘徊しているのに・・・・。

雉は信頼しきっていた地面が地鳴りを立てて揺れ出すことが居た堪れないのだろう。

特に、夜中、向かいの山が低く太く地鳴り出し、やがてグググッと揺れ出すと、闇の底を突いて

彼女の声が「ケン、ケン」と響む(とよむ)・・・・・、でも、この二声だけで、後はじっと潜むのである。

やはり、天敵を気に掛けているのだろうか。

 揺れの激しい瞬きは樹上のカラスや、ケモノたちも騒ぎ出す。

あの「ちょっと、来ーい。ちょっと、来ーい」と草叢や藪に隠れて鳴くな コジュケイ もやたらと姿を見

かける。 普段、こんなに姿を見かけることはなかったのに・・・・。

そういえば、多くの鳶が地震当日、川原の見晴らしのよい木の低い枝に止まっているのが視られた。

野鳥の会の「Mさん」曰く、「魚でも浮き上がるのですかね・・・・」と。

 

さっき、触れた発情した猫達の話に関連してもう一つ、

我が家の庭や畑の至る所に、モグラの無念な姿が目に付くのである。

地震の揺れに無防備なまま地表に飛び出したモグラ達は猫達の格好の獲物になってしまうのかも

知れない。

 以前我が家に勝手に居ついたメス猫がモグラを捕まえる度に誇らしそうに、家人に見せに持ち帰っ

てきたことがあった。 決して、食べるわけではなく、しばらく、弄り遊んで、息絶えて動かなくなった

躯をそのままにして、また何処へやら出かけていったものである。

その弄ばれたモグラの死躯を見ていた僕の眼は、庭の石の傍らや、コンクリートのタタキのすみに

置き去りにされたモグラの黒光りする毛の鈍い反射を目ざとく見つけて仕舞うのである。

地震に揺れた心は至る所にその余波を見つめている・・・・・・。